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校長講話
201508.27
校長講話_30「奈々子に」
さて、今朝は皆さんに詩を一つ紹介したいと思います。その前に少し、お話をします。
長野清泉では、この10年間、毎年夏休みに、「いのちへのまなざしを深めるために」というテーマのもと、ワークショップを行ってきました。今年も2年生、59名が参加して、2日間ワークショップが行われました。
初日は、「いのちへのまなざしを深める」ということを、机の上の勉強ではなく、ロールプレイやディスカッションをしながら、体験していきます。先生方も参加しての真剣かつ楽しい学びのひと時となりました。
このワークショップを始めるにあたって、講師の内山二郎先生が一つの詩を読んで下さいました。実は、私もその詩が好きで、以前クラスで何回か読んだことがあったので、色々なことを思い出しながら内山先生の朗読をお聞きしました。今朝はその詩を紹介したいと思います。
偶然ではありますが、昨年の夏休み明けの放送朝礼でも吉野弘の「夕焼け」という詩を紹介しました。バスの中で席をゆずる女の子についての詩でした。先日、内山先生が朗読して下さった詩も、吉野弘の詩で、自分の娘が誕生した時に、その娘に向けて作った詩です。詩の中には、「自分を愛する」という言葉が繰り返し出てきます。吉野弘は娘に何を望んだのか、そのことをちょっと頭に置いてお聞き下さい。ではお読みします。
「奈々子に」
赤い林檎の頬をして/眠っている 奈々子。
お前のお母さんの頬の赤さは/そっくり/奈々子の頬にいってしまって
ひところのお母さんの/つややかな頬は少し青ざめた
お父さんにも ちょっと/酸っぱい思いがふえた。
唐突だが/奈々子/お父さんは お前に/多くを期待しないだろう。
ひとが/ほかからの期待に応えようとして
どんなに/自分を駄目にしてしまうか/お父さんは はっきり/知ってしまったから。
お父さんが/お前にあげたいものは/健康と/自分を愛する心だ。
ひとが/ひとでなくなるのは/自分を愛することをやめるときだ。
自分を愛することをやめるとき/ひとは/他人を愛することをやめ
世界を見失ってしまう。
自分があるとき/他人があり/世界がある。
お父さんにも/お母さんにも/酸っぱい苦労がふえた
苦労は/今は/お前にあげられない。
お前にあげたいものは/香りのよい健康と
かちとるにむづかしく/はぐくむにむづかしい/自分を愛する心だ。
(文中の「/」は改行を示します。)
吉野弘の「奈々子へ」という詩です。読書の秋、機会があったら、吉野弘のそのほかの詩も読んでみて下さい。
(8月26日、放送朝礼より。写真:8月18日ワークショップ、講師、内山二郎氏。)