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校長講話

201803.12

校長講話_95「2017年度高校卒業式式辞『地球市民の一員として』」

「地球市民の一員として」

力強い日差しに希望の春の訪れを実感する時、今年もこのように卒業式を行えることを心から感謝したいと思います。

 高校3年生の皆さん、卒業おめでとうございます。皆さんは青春のかけがえのない日々を3年間、また6年間、長野清泉女学院で過ごしました。学業はもちろん、心も豊かに育ててきた皆さんが卒業していくことは淋しくもありますが、大きな喜びでもあります。

 保護者の皆さま、本日はおめでとうございます。皆さまの大きな愛と、暖かな支えによって、生徒たちは今日を迎えることができました。

 ご来賓の皆さま、いつも本校のことを心に留めて頂き、また様々な場で支えて下さっていることに心より感謝申し上げます。

 今朝は「地球市民の一員として」というテーマで、少しお話し致します。皆さんは今、激動の時代に生きています。歴史を眺めて見ますと、いつの時代も激動の時代であったように思いますが、現代の私たちの抱える問題が地球の存亡に関わるという点で、過去に例のない時代を私たちは生きていると言えるかも知れません。

 昨年一年は、「地球の存亡に関わる」という意味において、2つの大きな出来事がありました。今朝はその2つの出来事について考えてみます。幾つかの事実を拾い、その事実を並べてみたいと思います。私がどう考えるかは最小限に留め、みなさんにその事実について考えてもらえればと願っています。

 一つは、核兵器の存在についてです。カトリック教会のローマ司教である教皇フランシスコは昨年の12月に、「核兵器の保有だけでも断固として非難されるべきだ。」と述べ、核保有について踏み込んだ発言をしました。さらに今年の1月には原爆投下後の長崎で撮影された「焼き場に立つ少年」の写真をカードに印刷し、「戦争が生み出したもの」の言葉を付けて、広めるように指示を出しました。その写真は、原爆によって命を落とした妹を背負い、火葬場に立つ少年の写真です。背筋をしっかりと伸ばし、歯を食いしばり、直立不動で前をまっすぐに見つめています。

 教皇フランシスコの発言と行動は、昨年7月に国連で採択された画期的な「核兵器禁止条約」、また10月の「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のノーベル平和賞受賞により生まれた核廃絶への流れを後押ししてくという決意の表れでもあると感じました。

 世界で唯一の被爆国である日本に住む私たちにとっても一連の出来事は目を離せないものでした。しかし、日本政府の対応は、人それぞれ受け取りは違うでしょうが、少なくとも私には失望を感じさせるものと言わざるを得ませんでした。先ほどお話しした「核兵器禁止条約」の多国間交渉はちょうど一年前の3月に始まりましたが、アメリカ政府は日本に交渉に参加しないように求めてきました。世界で唯一の被爆国である日本は3月末に「核兵器禁止条約」の交渉に参加しないことを表明しました。日本国内で、あるいは世界各地で、核兵器廃絶に向けて努力を続ける人々の間に失望が広がったのは言うまでもありません。今年の1月、長崎で講演したICANの事務局長、ベアトリス・フィンさんは講演後のパネルディスカッションで、「核兵器禁止条約への参加は、米国による核抑止力の正当性を損なう」と主張した外務省の課長に対して、「条約への参加は日米同盟に影響しない。」と反論しました。

 それぞれに当然言い分はあるでしょう。一つ、確かなことは、核兵器について考えることは「地球の存亡」に深く関わる、ということです。そして特に、日本に住む私たちは、この問題について無関心であってはならない、と私は思います。

 もう一つの出来事について考えてみます。地球環境についてです。教皇フランシスコについて、再び触れます。20155月、教皇フランシスコは回勅『ラウダ―ト・シ』を公にしました。日本語訳は2016年の8月に出版されました。その『ラウダ―ト・シ』の中で、教皇フランシスコは次の様に述べています。「わたしたちは後続する世代の人々に、今成長しつつある子どもたちに、どのような世界を残そうとするのでしょうか。」

 昨年の6月、アメリカのトランプ大統領は、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を表明しました。パリ協定の離脱は選挙公約の一つであったので、公約を実行するのは大統領の義務であると言えます。

 トランプ大統領のパリ協定離脱に際して、印象的な出来事がありました。アメリカ政府がパリ協定を離脱しようとも、「私たちは残る。」と声を上げた人々がいたことです。前ニューヨーク市長のブルームバーグ氏が呼びかけました。“We are still in.” “still”は「まだ」で、“in”は「中にいる」、つまり「私たちはまだパリ協定にとどまる。」の意味です。“We are still in.” とても力強い言葉です。この“We are still in.” には、123の市、9つの州、90の企業と投資家、183の大学が参加しました。アップル、グーグル、ナイキなどの大企業、パタゴニアなどの個性的な企業、様々な人々が集まりました。そのメッセージには次の言葉があります。

 「ワシントンからのリーダーシップがないのであれば、米国経済の相当な規模を代表する我々、州、自治体、大学、企業、投資家、が、積極的な温室効果ガス削減の目標を追求していく。我々はともに手をとり、アメリカが削減の世界的リーダーとして踏み止まれるように力強く行動していく。」この行動には驚かされました。皆さんはどう感じるでしょうか。

 さて、核兵器のこと、地球温暖化のことに関わる幾つかの事実についてお話ししました。こうした事実を並べただけでも、私達は様々なことを考えさせられると思いませんか。そして、今述べた出来事は、教皇フランシスコの言う「わたしたちは、後続する世代の人々に、今成長しつつある子どもたに、どのような世界を残そうとするのでしょうか。」という問いかけと深く関係することです。皆さんに、この問いかけを忘れずにいてほしいと思います。

 私には忘れられない一冊の本があります。その本を紹介して話を終えたいと思います。立花隆の『宇宙からの帰還』という本です。1983年、今から35年前に出版された本ですが、決して古びていないだけでなく、より輝きを増している本です。立花隆が何人かの宇宙飛行士を訪ね、インタビューしたことが中心の内容です。とても心に残る宇宙飛行士の言葉があります。

 “We do not realize what we have on earth until we leave it.” 「地球を離れて初めて、我々はこの地球で何を持っているかがわかる。」

 この本の内容を象徴的に表している言葉です。もう一度、読みます。

 “We do not realize what we have on earth until we leave it.”

 他にも幾つか、忘れられない言葉があります。幾つか紹介します。

 「宇宙から見る地球は本当に美しい。宇宙飛行士がみないうことだが、ほんとに美しい。しかし同時にそれが汚されつつあるというのもほんとなのだ。(少し略します。)ロスアンゼルスのスモッグ、デンバーのスモッグ、東京のスモッグなど、世界的に有名な大気汚染は肉眼で観察できた。それは実に悲しい眺めだ。地球全体が美しすぎるほど美しいだけに、そういうシミのような部分の存在を目にするとほんとに悲しくなる。」

さらに、こういうことも語ります。

「宇宙からこの美しい地球を眺めていると、そこで地球人同士が相争い、相戦い合っていることがなんとも悲しいことに思えてくるのだ。どんなに戦ってもお互い誰もこの地球の外に出ることはできない。」

別の宇宙飛行士の言葉です。

「宇宙から地球を見るとき、そのあまりの美しさにうたれる。こんな美しいものが偶然の産物として生れるはずがない。ある日、ある時、偶然にぶつかった素粒子と素粒子が結合して偶然こういうものができたなどということは、絶対、信じられない。地球はそれほど美しい。」

 最後に、もう一度教皇フランシスコの問いかけを引きます。

「私たちは後続する世代の人々に、今成長しつつある子どもたちにどのような世界を残そうとするのでしょうか。」

 皆さんだけでなく、この問いかけは今地球で暮らす全ての人々に向けられています。この問いかけへの答え方は、一人一人異なることでしょう。お互いに、地球市民の一員として、考えていきましょう。

(3月3日 高校卒業式式辞)

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宇宙から見た地球

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