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清泉メッセージ

201605.23

No97「本は、必ず、みなさんを知らない世界に」

murakami.jpg今日の朝読書、みなさんは、どのような本を読みましたか。私は『源氏物語』を読んでいます。明治から昭和にかけて活躍し、ノーベル賞の候補にも名前が上がっていた谷崎潤一郎という小説家が現代語訳したものです。千年以上昔に紫式部によって執筆され、五十年以上前に近代の小説家によって翻訳されたものです。格調だかく瑞瑞しい文章は、いま読んでも胸に訴えかけてくる物がありますし、なにより読んでいて心地よい気分にしてくれます。

ところで、みなさんは、読書に対して、どのような印象を持っていますか。自分の内に籠もるような閉鎖的なイメージを持っていませんか。

小説家の村上春樹さんが、読書について書いた文章を、紹介したいと思います。村上さんは、みなさんと同じ十代のころの読書体験について次のように振り返っています。

「本について言えば僕は、何しろ実に色々な種類の書物を、燃えさかる窯にスコップで放り込むみたいに、片端から貪り読んできました。(中略)いろんな種類の本を読み漁ったことによって、視野がある程度ナチュラルに「相対化」されていったことも、十代の僕にとっては大きな意味あいを持っていたと思います。本の中に描かれた様々な感情をほとんど自分のものとして体験し、イマジネーションの中で時間や空間を自由に行き来し、様々な不思議な風景を目にし、様々な言葉を自分の身体に通過させたことによって、僕の視点は多かれ少なかれ複合的になっていったということです。つまり今自分が立っている地点から世界を眺めるというだけでなく、少し離れたよその地点から、世界を眺めている自分自身の姿をも、それなりに客観的に眺めることができるようになったわけです。

ものごとを自分の視点からばかり眺めていると、どうしても世界がぐつぐつとに煮詰まってきます。身体がこわばり、フットワークが重くなり、うまく身動きがとれなくなります。でもいくつかの視点から自分の立ち位置を眺めることができるようになると、言い換えれば、自分という存在を何か別の体系に託せるようになると、世界はより立体性を柔軟性を帯びてきます。これは人がこの世界で生きていく上で、とても大事な意味を持つ姿勢であるはずだと、僕は考えています。読書を通してそれを学びとれたことは、僕にとっては大きな収穫でした。」

(『職業としての小説家』、スイッチ・パブリッシング、2015年9月刊)

以上が村上さんの文章です。

つまり、読書とは自分という幅を広げることであり、なにより想像力を豊かにするものではないでしょうか。想像力がなければ、他者と友情を築くことも、愛情を深めることもできません。

ですが、肩肘張らず、気楽に本を読んでほしいと思います。優れた本は、必ず、みなさんを知らない世界に連れて行ってくれるでしょう。

(5月19日、放送朝礼より。写真出典:http://www.amazon.co.jp/… 「村上春樹 職業としての小説家」)

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